大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和58年(あ)1458号 決定

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人両名の弁護人組村真平、同藤本昭夫の上告趣意第一点は、単なる法令違反の主張であり、同第二点は、事実誤認の主張であり、同第三点は、憲法一四条違反をいう点を含め、実質は量刑不当の主張であって、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

なお、所論にかんがみ、本件QRY受信用紙(以下、「本件受信記録」という。)の謄本の証拠能力について検討すると、以下のとおりである。まず、本件受信記録の原本は、それ自体だけからでは刑訴法三二三条二号にいう「業務の通常の過程において作成された書面」であることが必ずしも明らかではないけれども、その作成者の証言等関係証拠をも併せて検討すると、「北海いかつり船団」所属の各漁船は、同船団の事前の取決めにより、洋上操業中、毎日定時に操業位置、操業状況、漁獲高等を暗号表等を用いて相互に無線電話で通信し合い、その通信内容を所定の受信用紙に記載することになっていたものであるところ、本件受信記録は、右船団所属の第二一福聚丸の乗組員が、右取決めに従い、洋上操業中の同船内において、通信業務担当者として、他船の乗組員が通常の業務として発する定時通信を受信した都度その内容を所定の受信用紙に機械的に記入したものであることが認められるから、本件受信記録自体は、船団所属の漁船の操業位置等を認定するための証拠として、「業務の通常の過程において作成された書面」に該当すると認めるのが相当である。そして、本件受信記録の謄本は、司法警察員が他の被疑事件の証拠として、本件受信記録を石田鉄雄から押収し、その押収中に電子コピー機を使用して正確にこれを複写し、これに謄本である旨の認証文を付して作成したものであり、その後右原本が石田に還付され同人のもとで滅失したことが認められるから、所論がいうように、たとえ検察官において後に本件で証拠調べを請求するに至るであろうことについての配慮を欠いて、右原本を前記他の事件についての略式命令が確定した後に石田に還付してしまったという事情があったとしても、本件受信記録の謄本の証拠能力が否定されるものではないと解すべきであり、これと同旨の原判断は相当である。

よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 角田禮次郎 裁判官 谷口正孝 裁判官 高島益郎 裁判官 大内恒夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例